【梅原トレーナーのからだづくり哲学】育成の議論は本当に前向きなのか(下)

スキルアップ 梅原 淳 育成法

育成について、最近さまざまな場所で議論が盛り上がってきた、と前号の(上)にて書き始めた。

こちらを読んでいない人は、どうぞ(上)をご覧になってから本稿を読み進めてもらいたい。部分的な見聞きは、大概にして誤解を生んでしまう。

さて「育成」という熱いワードについて、前号があなたの心や思考にどのようなきっかけとなっただろうか。当然、何を聞いてもまったく変化はないという方もいると思う。

それはそれでまったく構わない。たくさんの色があることが、物事の発展には望ましい。

このレポートではしばし、私の提案を聞いてもらいたい。

育成問題の本質を考える

前号で選手からのボールをキャッチする器、という話をした。

現代のスポーツ指導や教育では、コーチが最初に投げてしまい、またそれがものすごく速くて強い球なので選手はうまくキャッチできないし、次々投げてこられるものだから返投ができないでいる。

いつしか判断して、「もう受けるだけにしよう」となる。それが現代日本の素直な姿である。

ではそれをコーチはどう考えているのか?ボールを返してこない選手を非難している。

投げる自分のボールの強さ、投げる数、そもそも投げること自体について、考えを巡らせてみようとはしない。自分はさておき、相手の行動ばかりを気に掛けている。

ここに育成問題の深淵がある。

だから育成問題と称して議論するとき、いつも中身は「コーチが選手の心に火をつける」とか「選手ファーストで考える」ということになる。褒めて伸ばすというワードが盛り上がるのも、そのひとつの表れと言えるだろう。

理論立てて正しい説明をすると必ず動く、と言う人もいる。いいえ動きません。

問題の本質は、褒める叱るではなく、理論か根性かではなく、どちらファーストかでもなく、やる気スイッチでもなく、教える側の「自分が創り上げよう」を捨てることにある。

我々コーチ側が何もかも自分がストーリー立ててそれを叶えようとすることに、本当の育成のミスが存在している。

世の中のそういった立場の人間、それは大人、親、教師、講師、コーチという肩書きをもらっている人が、教育という名において自分がコントロールしようという前提を変えなくてはいけないのだと私は考える。

育成を独占している自分がいる

これを聞いて、職場放棄と捉える人もいるかもしれない。おまえは無責任をしろと言っているのか、そう怒る人もおそらくいるだろう。

まさか。

教える立場にある者は、わずかでも自分のサポートで人を育てたい、良いものにしてあげたいと、心から願ってその世界に身を投じたはずである。

その志こそがコーチたらしめるエナジーであるのだから、燃える情熱を傾けなくて一体なにが指導者であろうか。

ここで申し上げたいことは、教えないとか放任するという話ではない。いまの指導スタイルそのままでも良くて、表面の様子ではなく「育成」を自分だけが考えたり進めたりする独占を止めるべきだということだ。

たとえば育成は、だれが育つことであるのか。選手だ。

育成という言葉は、誰に向けられた言葉か。選手である。

これをもしかすると、コーチの自分だと捉えているのではないですか?と私は問うている。

「選手のため」と願うコーチ自身の想いについて

そんなつもりはない、きっとほとんどの人がそう答える。私もそれは誤魔化などしではなく、本心だと思う。ただそこから一歩、さらに踏み込もうということだ。

選手のため子のためと言ってやはりボールを強く投げていることに、考えを巡らせてみませんか?

それをどれだけ長い間続けてきて、今のこの情況があるのだろうか。成果は出ているか。

それならば、自分がどんな良いボールを選手に投げるかよりも、選手がコーチのあなたにどんなボールをよこすのかを育成の真ん中に置いて、本人が素晴らしいボールを投げられるように尽力するほうが有意義ではないかと、ちょっと思考を捻ってみてはどうか。

育成の意味を「育てる」から「育つ」に変えること、それが私の提案です。

そのためにこそ、まこと恐縮ながらコーチが手に握っている選手の成長を本人へ返せと説いている。

選手の自助力を育むことに尽くそう

育成について議論するとき、必ず主語がコーチとなり、「コーチが選手をどう育てるか」で話が進んでいく。

これが根本的な誤りで、実際には「選手が自分をどこまで伸ばすか」を礎とした育成であるべきだ。

指導者が携わる部分も、自分の指導スキルの向上より、選手の自助力の向上であればこそ物事はシンプルに進んでいく。

よく「教え導く」などと言うが、あまり「自分の力で」という感じにならないようにするべきだと思う。

情熱を注ぐなら、自分の指導にではなく選手の自己成長に火をつけるほうへ。

選手の「自分で育つ力」を後押しすること、そこを教えることが私たちの本分であると理解したい。

ここからまた一緒に考えましょう。

(了)

この記事を書いた人:梅原淳梅原 淳
運動技能を向上させる専門家として、またバスケットボールでのファンダメンタル・スキルを教えるコーチとして全国各地に出向いています。またその活動から得た日々の思考や発見を、YouTubeなどSNSを活用して情報配信しています。このコーナーで扱う内容は、それらSNSでは記さない一歩踏み込んだ情報として、トレーニング実践レポートをはじめ自分の育て方、大人の再教育、子育て、健康づくり、みなぎる食事など、あらゆるジャンルをテーマにお届けします。