勝ち負けと育成を分断する誤り【梅原トレーナーのからだづくり哲学】
昨今、育成という言葉がもはやスポーツの絶対条件となって、それのないチームやコーチングは世間から良い目では見られない風潮にあります。
それほど大事に崇められている無敵の言葉なのですが、私はどうも釈然としない部分があると以前から思っていました。
簡単に育成などと皆、口にしますが、ではどれほど選手の成長をつくっているのでしょうか。
これは大人から子どもへ向けたキーワードであり、はっきり申し上げれば、我々大人が勝手な都合と事情でつくりだした言葉です。推し進めているのは完全に大人です。
大人とは、コーチや、親や、チームのオーナーや、協会関係者や、それをウォッチングしている世間の人たちのことです。
そしてこの「THE育成」は、勝利欲に染まった亡者、◯◯主義者と対比するものとして、素晴らしい考え方、正しい行為というお墨付きをもらっているわけです。
そのお墨付きを与えたのも大人です。要するに育成は偏ったものである、ということです。
すでに皆思い込んでいる
どうしてそのように言えるのか。
現場を知る者として、少なからず当事者の間には、このワードを勝てない言い訳としている様子がありありと感じられるからです。
勝つために頑張ってはいけないのでしょうか、どこまでも上位を求めることは卑しいのでしょうか、子どもらは結果に喜んではいけないとでもいうのでしょうか。
育成を主張し第一主義になさっている人ほど、狭い価値観にそれを閉じ込めて「これは育成から外れている」とあらゆるものを断罪します。
結果を出すことを嫌うのが育成であるような雰囲気すらあります。私たちはもうすでに誤ったほうへ、舵を切りはじめているように思います。
誰もができることなら成功したい、結果がほしいと期待しているその当然の事実を、まるで無いかのごとく風呂敷で覆い隠して見えなくし、もしくは耳を塞いで聞こえないようにしています。
だからなぜか結果を求めることを言うと、育成ではないような見られ方をしてしまうのです。あなたも「あんまり結果を欲さないほうがいいのかナァ」なんて考えたりしていないでしょうか。
一人歩きを始めたTHE育成が、世に浸透している証拠です。
排除できない
ありのままに申し上げて、熱中するのはゲームがうまく展開するからであり、そこに攻防の面白さを強く感じてより上達しようと頑張るし、また素直に「勝つため」の努力をするのであって、スポーツに身を投じる目的と目標は明白です。
つまり良い結果を望むことは、育成云々とはまったく関わりのないことです。
いやむしろ、そのためにこそ育成というものが存在しています。うまくなるのは勝つためです。それが選手のまっすぐな欲なのです。
スポーツから「勝利」「結果」を排除することはできません。
歪んだ育成主義
いまは、勝ちに拘ると育成ではないように言われてしまいます。まことおかしな話です。
卑怯な手を使って見かけの勝利を手に入れたならば、育成に関係なく非難されるべきことです。
しかしどこまでも強く勝利を切望し、努力を惜しまない姿勢は、まさか咎められる行為などではありません。
それは子ども(選手)がそう思おうと、大人(コーチ)がそう思おうと真っ当です。1ミリだって悪いところなど見当たりません。
それと反対に、勝てないこと上達しないことを言い訳にするための育成であるならば、それこそ誤った主義主張と言わざるを得ません。
育成だからこそ、堂々と「強くなりたい」「勝ちたい」と言って良いのです。
フェアな育成を
育成が話題に取り上げられるとき、決まって「結果を望むことをどう考えるか」と皆が考えます。
多くの人が様々に持論を語りますが、こうなることがすでに思い込みの浸透を表しています。
結果を望むと育成ではないかのような印象を、多くの人が持っているのです。
いいえ、それこれとはまったく対立するものではありません。
頭でっかちになって意固地なポジションの育成を、いったい誰が望み幸せを享受できるでしょうか。
選手も、コーチも、周囲の関係者も皆が勝ちたいと願い、また上達を望むことはどこまでも健全な思考であり、その熱いエナジーこそ人同士の団結や生き甲斐に繋がるものです。
むしろ大切に育むものだと思いますので、育成の言葉を決意の弱さの盾にすることは許容できるものではありません。
説得するつもりなど毛頭なく、読者のあなたにはご自身の素直なお考えで育成を語っていただきたいと思います。
その上で、どうぞフェアな育成に取り組まれることをささやかに願います。
(了)
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