【梅原トレーナーのからだづくり哲学】 育成という言葉が安くそして怪しいものになりつつある(後編)
前回の概要は割愛します。読んでいない方は、ぜひ下記を先にご覧ください。
【梅原トレーナーのからだづくり哲学】 育成という言葉が安くそして怪しいものになりつつある(前編)
特別指定選手制度そしてそれを批判するための育成という名の正義について、いくつかの問題点を挙げておく。
その1「ケガはあくまで選手の問題」
ケガは痛ましいものだ。突き指や打撲程度ならば回復も早いので、時間のロスはわずかで済む。しかし骨折や手術を要するようなケガは、場合によっては選手生命すら危うくする。
スポーツ選手において、ただひとつの道具である我が体は命そのものである。だからこそ日頃から肉体を鍛え、運動能力を発達させ、疲労回復にも気を遣う。
それは本人が自分について頑張ることである。それ以外のどんな人や組織にも責任はないし、役目でもない。スポーツ選手として(とくにプロとして)自分の人生をつくる大事な宝を守るのは、どこまでも本人の意思による行為だ。
よって試合に出したコーチにも、制度自体にも、それを設けた組織にも一切の非はない。反対にその試合での事故として、チームが最大限のサポートをすると約束までしている。これはものすごい待遇である。
ケガの回復およびコート復帰までの道筋を、チーム側が色々と手を回して医療や強化の面を用意してくれるということだ。場合によってはお金もサポートされるかもしれない。
あり得ないほど手厚く保護されていると言える。
その2「有望選手だけへの特別視」
批判をする人たちには、あきらかに偏った見方が存在する。育成という言葉が、まるで日本代表レベルの選手だけを指定しているかのような発言であることだ。
これはJBAにも同じことを問いたい。
私が育成という言葉にウソを感じずにいられない理由のもう一つに、これがある。協会として日本のバスケットボール全体を仕切る立場のJBAが、その登録選手全員に対して育成を講ずるのは責任である。
しかし実際には、現場にいて協会の育成の手が届いていることを認識したことはない。目の前の選手について協会はどんな育成を考え、登録費を払った分の還元を選手たちにしてくれているのだろうか。
いつも疑問に思う。
育成という言葉は、あきらかに日本国として国際試合で勝つために使える人材を発掘することを言っている。ふるいに掛けて選抜をしているだけであり、それでも育てていると言うのならば、それは代表候補選手をさらに鍛えることを指している。
今回の特別指定選手制度への批判は、これとなにも変わらない。将来有望な選手が潰れたから大問題だ、と言っているのだ。日々ケガをするスポーツ選手はたくさんいるのに。それはあきらかな差別である。
その3「価値あるデータがない」
長いスパンで幾度となく同じようなケガ、スポーツ事故が繰り返されてきたものについては関連性を疑ってみることが必要だろう。
同制度において
- その対象選手が次々とゲームで故障すること、
- それが数年にわたって変わらず繰り返されること
があれば、なにか特定の原因がないか繋がりを考え調査することは有益だ。
しかしただ一度や二度、ケガがあったことでシステムの不備を疑うことは誰もしない。もし数名のケガ人が出たとしても、たとえば5年10年で見ればただ一度その年だけに固まって起こっただけのことかもしれないからだ。
ケガが重なる事というのは、スポーツ現場では大いにあり得る。私も実際に、ひとつのチームで1,2ヶ月のうちに集中して選手数名がケガをするのを、何度か見てきた。三人とも同じ部位、といったこともあった。
本当に悲運だったが、たった一度そのときだけであったのも事実だ。
育成を根本から見直すことが必要
ケガというものは連鎖することが、本当にある。おそらく心理的な作用だと考えられるが、それを以てシステムが悪いとか、それをつくった組織が悪いという話はこじつけでしかなく、完全に意図的な批判や非難と言って良い。
私は決してB.LEAGUEをかばっているのではない。彼らの見方をするつもりは毛頭ない。ただありのままを言っていて、違うものを違うと申し上げているだけだ。
これから特別指定選手制度は、少しずつ良い内容に深めていく必要がある。それは制度を整えた者の義務だ。当然このようなケガについての取り扱いも、より具体的に規則で定めておくことが不可欠である。
これは文字通り、トップ選手だけへの特別制度である。日本代表、B.LEAGUEに留まらず各年代、競技レベル全体、男女すべての登録者について選手本人らが自分を伸ばすチャレンジをすることのできる制度や策を期待して結びとしたい。
最後までお読み頂きありがとうございました。
(了)
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