【梅原トレーナーのからだづくり哲学】楽しさを伝えることを頑張りすぎているあなたへ

スキルアップ チーム作り 指導法 梅原 淳 育成法

スポーツ指導に従事する方々からしばしば、「子どもにスポーツの楽しさを伝えたい」という言葉を聞く。

同じようにして、バスケットボールのコーチたちにも「小学生の子たちに、ぜひバスケを楽しいと思いまた好きになってもらいたい」という声がある。

皆曰く、幼い頃から勝ち負けに囚われるような状況にはしないで、その後もずっとバスケットボールを続けてくれるように、普及の目的で指導を行いたい、ということだ。

私も同感、賛成である。至極真っ当な考えであり、とても強い志だと敬意を表したい。

その上でひとつ、ズレを感じるところがある。

好きになってもらうコーチ側の努力というものは、気持ち悪いくらいのベタ褒めをすることや、過剰に楽しさを演出することや、生活態度の乱れを放置するようなことであるのだろうか。

それとバスケを楽しいと思ってもらうこと、好きになることは繋がっているのかと、私はいささか疑問を感じている。

さらに申し上げると、楽しさを伝えることを無理に行おうとすることは、コーチの思いとは反対の結果を招く、もしくはズレた楽しみ方を身につけてしまうことになりかねないと、強く懸念する。

まだバスケットボールをしたことのない人にプロのゲームを見てもらったり、クリニックをして体験してもらうという場合ならば、プレゼンテーションだからアピールやオファーがあるのはよくわかる。

しかし、すでにクラブ(日本ではミニバス)で活動している選手に「楽しさを伝える」というのは、一体どういうことなのだろうか。

少し考えてみたい。

▼コーチの過剰な楽しさアピールは必要か

私はそもそも楽しさを感じたり、競技を好きになったりすることは、本人が自ずと行うことだと思う。

他人がそう見せようとするものではなくて、やってみて何が楽しいと感じるか、それをすることが好きになるか、自由に自分で決めることが自然である。

自分でやりたいと思うからクラブに入ったのだし、レギュラーになろうとか上手くなりたいと思うから、辞めないで続けているのだろう。

それをあえて楽しさを感じる指導とか、好きになってもらうことをコーチがするというのは、過剰なサービスを選手に施すことになりかねない。

気に入ってもらうため、喜んでもらうために大げさな振る舞いをし、特別な扱いをして、褒めまくりの気遣いまくり。×も○として嘘を通せば、選手は育つどころか伸び代をも縮めることになるだろう。

意欲があるから、今できるプレイで楽しく感じるだけでなく、さらに覚えたいプレイもあるはずで、人は困難でもできるようにしたいと心が燃えれば自ずと積極的に取り組むものだ。

それは楽しさそのものであり、外からの手助けや誘い込みは一切必要としない。

楽しさとは自分の内なるところから湧き上がる自己創出であり、他人がそれを注ぎ込むことは意味が無いように思う。

▼頑張りすぎて失敗する

バスケットボールを普及させるために楽しさ面白さを伝えることはもちろんとても有意義で、日々尽力している方の志と行動力はバスケットボールの希望である。

だからこそ方法を失敗すると、せっかくの貢献が台無しになってしまうことにもなりかねない。厳しいことを申し上げるが、皆でバスケットボールを成長させていきたいからこそ、本音で言わなければいけないこともある。

良かれと思って取っている行動が、本当は粘り強さも壁を乗り越えるエナジーも持てないヤワな人間を増やしているかもしれないと、心を鬼にして、批判を受ける覚悟で進言申し上げる。

社会貢献とか選手ファーストということがいま大きく叫ばれているが、だからといって自分もそうであらねばと責任感が強く出て、コーチング哲学だなんだとあまり理屈をこねてしまうと無理が生じる。

なんでも自分がつくるものだと思わないほうが良い。コーチや大人の役目は子どもを組み立てることにはあらず。全部を大人が導くと考えてしまうと失敗する。

▼良き方向へ、コーチはその先頭を歩く

真に選手に貢献できるコーチングとはなにか。あなたにはできること、できないことがある。

誰しも選手のためにと思い、選手ファースト、チームファーストで進めて行けたら良いと願っているが、過剰に持ち上げたり褒めたりすることが真にその精神か。真の楽しさや好きの深まりに貢献するのか。

練習が楽だとか好き勝手すること、遊び半分にオチャラケてする活動が、子どもの意欲とそのスポーツの人気を上げるとは、断じて思わない。

子どもは楽しさと好きを、自分で見出してクラブに通っている。バスケットボールが楽しいし、チームで練習することが楽しいし、あなたに教えてもらうことが楽しいと感じている。

だからそこを操作することは手放して、とにかく元気で活発に練習・試合をしていただきたい。コーチが変に画策して、子どもを持てはやすような姿勢は不要である。

エネルギッシュを膨らますのはコーチの仕事だ。子ども本人も当然元気いっぱいだが、さらに盛り上げてクラブ全体をエネルギッシュに引っ張っていくリーダーが必要である。

そう、コーチは太鼓持ちではなく、リーダーなのだ。

▼本当のたのしさとは

あなたがエネルギッシュを子どもたちに身を以て示し、先頭に立ってチームを前進させていこう。それを背中で見ながら、子どもは自分で様々にアクションするだろう。

願いどおりに全ての者が「楽しい!」とは思わないかもしれない。でもそれはあなたのせいではなく、子どものせいでもない。それが自然で自由な人間の感情だ。誰にもコントロールや邪魔はできない。

少し遅れて楽しさを実感し始める人もいるだろうし、表には見せなくても本当はけっこう楽しんでいる人もいるかもしれない。コーチの一所懸命は、見せかけで楽しく思わせようとしなくても、きっと彼らに届いているに違いない。

本当の楽しさとは、何かを目指すこと、こうなりたいと夢を持つこと、できるようになりたい意欲とそれをするワクワクと、のめり込むほどの熱中ではないだろうか。

もしバスケットボールがその子にとって熱中するものならば、壮大な夢を持ち目標を持つだろう。それを後押しすることがコーチの本当の役目だということを、考えてもらえたらと思う。

いささか私の願いのようなレポートになったが、このメルマガの読者と共有したい内容でもあった。

僅かでもあなた自身の発想のきっかけになれば幸いである。

(了)

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