「ディフェンス・フットワークは試合で発揮されない(下)」【梅原トレーナーのからだづくり哲学】トレーニングレポート No.113
実戦でディフェンス・フットワークを遺憾なく発揮するための方法は、ある部分の意識を変えることです。体づくりとまったく別の要素が強く影響していることを、前回にお伝えしました。
「ディフェンス・フットワークは試合で発揮されない(上)」 「ディフェンス・フットワークは試合で発揮されない(中)」
私がある日の練習でスクリメージをおこなった際、ディフェンス能力を上げるために課題にした二つのうち、とくにガードの選手に対して念を押したのがオンボールへのちょっとしたアクションです。
オンボールがフロントコートへ入ってくるときに、当然マッチアップするディフェンダーは待ち構えます。でもそれはあまり良い選択ではありません。
エントリーのパスが入ってからディフェンスをスタートさせるチームは大多数ですが、そのひとつまえ、ガードがフロント・コートに入るところでプレッシャーをつくることのできるチームは守備力が高いと言えます。
このチームでも原則はセンターラインの付近からディフェンスを仕掛けることになっていて、そのときにガードのディフェンスとくにバックコートでの仕掛けがポイントになります。
ボールを奪うことがすべてではない
私がそのディフェンダーに教えたのは、ドリブルを運んでくる選手の心理と行動パターンです。
オンボールは左右にエントリーパスを出したいし、できれば勢いに乗せてフロントコートで展開したいと考えています。そのためにはディフェンダーにつかまる前にスピードを出して、飛び込むようにフロントに入りたいでしょう。
ディフェンスがセンターライン付近まで上がって自分を捕まえようとするなら、なおのこと動く勢いは増します。
そうなるとディフェンスには厄介で、バックコートから走られると捕まえることが難しくなります。
いくら日頃、フットワークで足づくりをして鍛えていても、またそれがかなりの技量まで習得できていたとしても、人間同士の駆け引きが起こる場面ではタイミングやフェイントや緩急といったことが入ってきますから、その対処を覚える必要があります。
ディフェンダーは状況を優位にするために、オフェンスに先んじて圧力を与えて足を鈍らせたいところです。先に身構え、勝てるポジションに入り、いかにも詰め寄るぞと思わせぶりな様子を相手に見せます。
ほんの少し「ちょっかい」を出すだけでオフェンスは前へ飛び込むタイミングを逸したり足が鈍ったりしますし、その雰囲気だけでも相手に伝われば簡単には展開されません。
それはディフェンダー自身にとって、自慢のステップを発揮する万全の状態であると言えます。
ここでやっと本領発揮
ディフェンス・フットワークのトレーニングでは素晴らしい足さばきと逞しさを披露するのに、試合ではからっきし守れない選手というのは、純粋な足の技量よりもゲームスキルに未熟さがあります。
それがディフェンス力を伸ばせない原因である場合が少なくないので、スクリメージを行いディフェンスへの意識を広げさせようという発想が生まれました。
ディフェンスへの意識とは、ドリブルが始まってからがディフェンスなのではなく、先手を取って攻防を仕掛けるようにし、言わば「にらみ」を利かせてオフェンスのアクションを渋らせる先導型の守備を覚えることです。
これは前回に話した「ピックアップ」にも通ずるものがあります。
ピックアップは自分だけがターゲットを確認できていることではなく、そのターゲットにもディフェンスである自分を視界に入れて意識させることで、オフェンス初段階の運びを目に見えないかたちで鈍らせる効果があります。
そうやってオンボールもオフボールも、こちらからディフェンスの圧を掛けて展開を先導する技術を身につけることで、ようやくフットワークが本領を発揮するのです。
実戦から基礎をみる
1対1の攻防と5対5の攻防では、そこに内包する要素は大きく異なります。フットワーク的に練習するのとゲーム的なスクリージで練習するのも、まるで異なるものです。
どれだけ基礎練習を大事にしても、それはあくまで型であり、まだシミュレーションの段階です。実戦においてはそれ特有の新しい課題が出ますから、やはり訓練しなければいけません。
そこまで届かずに、トレーニングでの足づくりを目処にしているチームはなんと惜しいことをしているでしょうか。
練習試合でも、普段のスクリメージでも、とにかく実戦のかたちでディフェンスを訓練して足づくりをすることを不肖私から提案いたします。そこから取り出す基礎練習が正しいかたちです。
- なぜ一歩目のリードフットが出ない?
- なぜリバウンドが取れない?
- なぜ縦に抜かれる?
- なぜゴール下のコンタクトが弱い?
そんな問題点はどのチームに接しても変わりません。コーチも選手も頭を抱えていますが、鍛える方法を基礎練習から実戦練習に変えてみてください。基礎で鍛えた型が、まるで機能していないことを目の当たりにするでしょう。
きっとそこに答えが見つかるはずです。
このシリーズは以上としたいと思います。また折にふれて最新情報をレポートしていきます。どうぞお楽しみに。
(了)
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