タイムアウト明けでの攻撃的なディフェンス~MHPリーゼン・ルートヴィヒスブルクのディフェンスより12~

スキルアップ ディフェンス戦術 動画 片岡 秀一

今回の記事で、このブログシリーズも最終投稿となります。

読んでいただいた皆様、ありがとうございました。

最終記事も、ジョン・パトリックHCの指導哲学などを踏まえ、MHPリーゼン・ルートヴィヒスブルクのディフェンスを題材に、その深淵に少しでも迫れるように試みたいと思います。

同コーチは、“Think Outside the BOX”(常識の枠組みから離れて考える)ことを大切にされていると語られています。

また、ご自身の人生哲学として挑戦する事や、その過程を楽しむことを強調されています。

別の講習会では『嵐が止むのを待つのではなく、自ら嵐の中に立ち向かっていく。嵐の真っただ中でダンスを踊るかのように、過酷な環境に全力を尽くし、その瞬間を味わい、楽しむ』とも語られています。

“Think Outside the BOX”の象徴の一つが、自チームよりも予算で何倍も上回るチームにも勝利を掴もうと策を講じることです。

その為には、選手とスタッフの人材選定に明確な基準や指標を持つことを明確に述べられています。そして、

順位表や対戦チームの順位表ではなく、自チームの練習のプロセスにプライドを持つ日々を送ることを重要な価値観に据えられています。

具体的には、時間と空間を他チームよりも有効に活用する事が重要であり、フルコートのディフェンスをチームの武器の一つにされています。

また、それをコート上で表現する為にも従来の常識に捕らわれず、また自分たちのプロセスに自信を持つ為にも、実際に試合で要求するDFステップをダイナクックストレッチを兼ねて練習されているようです。

日々繰り返しの中で、チームで大切にするディフェンスを練習する事で、チームの文化が構築されていくことも語られています。

以前、日本体育大学で開催されたNSSU Coach Developer Academy主催の国際シンポジウムに登壇したラルフ・ピム博士氏、文化を「チームにいる全員の創造的な総体であり、それは、共通の価値観、信念、振る舞いのことである」と定義。

まさに、ジョン・パトリック氏のアプローチに合致します。

今回は、とある試合の中で上記の哲学が反映されている象徴的なご紹介します。

MHPリーゼン・ルートヴィヒスブルクの得点に対し、対戦チームがタイムアウトを要求。

その後のディフェンスにてフルコートからの非常に激しいディフェンスを見せ、ボールスクリーンでトラップを仕掛け、ファーストブレイクで得点。

その後のディフェンスでもフルコートのディフェンスより相手の選択肢を減らし、最後はディフェンスリバウンドを獲得。

ドリブルでボールを運ぶ際に、相手チームはファウルで封じるのがやっと。フリースローを獲得し一連のプレーで相手を完封する間、一気に6得点も重ね、相手チームをさらに困惑に貶めるシーンです。




1.プレーの構図

2.プレーの流れ

フルコートプレスの後に、上図のようにトップの位置でオンボールスクリーンの場面となりました。

ここで、MHPリーゼン・ルートヴィヒスブルクはX5とX1とでダブルチームを仕掛けます。

対戦チームは、フルコートプレスへの対処の余波もあるので精舎、スペーシングが非常に曖昧になっています。

ダブルチームと同時にX4もポジションを変えます。

5へのパスコースを守ると同時に、4にパスが出ても間に合うポジションを確保して、次のディフェンスに備えています。

ダブルチームが影響したのでしょう。

5へのパスがズレてX4がボールをスティールし、そのままゴールへと突き進もうとドリブルをします。

相手チームはファウルで食い止めるのが精一杯。チームファウルが累積で5個の為、フリースローとなりました。

3.まとめ

本プレーのように一定レベル以上のゲームで、相手のタイムアウト明けにリズムをさらに狂わすようなフルコートのディフェンスオプションを保有するのは珍しくありません。

もちろん、練習時間との兼ね合いや長期的な視点に立った選手の育成指針は必要になります。

しかし、スティールを狙うものではなくとも、相手のリズムを狂わすようなシステムを準備しておくことは、戦術的な駆け引きという意味でも有益といえるでしょう。

また、アイテムアウトを取ったチームとしては、相手チームがそのようにディフェンスで仕掛けてくる可能性を踏まえて試合前の準備を行うべきでしょう。

タイムアウト後にミスが続き、再びタイムアウトを要求することになれば、その試合で一気に流れを掴まれてしまいます。

ジョン・パトリックHCのチームビルディングの分析

ジョン・パトリック氏の講演(『Charging and reloading your team for the new season(新シーズンに向けたチームの準備)』)や実際の試合を拝見していると、ビジネス書の名著である『ビジョナリーカンパニー』の各コンセプトとの関連を強く感じる部分が数多くありました。




長年に渡って、素晴らしい事業を成し遂げている企業の特徴を整理したものです。同著で紹介されているキーワードに基づき、バスケチームとの関連を記載し、終了としたいと思います。

「誰をバスに乗せるか」

書籍では、人材の選定が非常に重要であることが強調されます。

本チームでは、Think outside the boxできる選手」を集める事。

また、「自分よりも高年俸の選手やチームに勝ち、プロとしてステップアップしたい、または優勝した経験が無く、優勝したいという意欲に満ちている選手」の見極めを重要視。

スタッフの選定には「気を遣える」人材かどうかを重視されていると強調されます。

時を告げるのではなく、時計をつくる

書籍では、自社の理念を掲げるだけではなく、それらを浸透させる仕組みを重要視されます。

本チームでは、一例として毎回の練習の中、自分たちのディフェンスシステムを遂行するために必要なステップワークやハンドワークの練習を積み重ねることが紹介されています。

また、講演では詳しく言及はありませんが、選手起用の基準等でもDFにおけるチームルールの遂行が重視されているはずです。

針鼠(ハリネズミ)の概念

針鼠(ハリネズミ)の概念として、自分たちが「どこで戦うのか」という強みを明瞭にすることが挙げられています。

「自社が世界一になれること」・「経済的原動力になれること」・「情熱をもって取り組めること」の3つの円が重なる領域で説明されます。

さらに簡易的な言葉でいうと「好きなこと×得意なこと×人のためになること」が重なる領域です。

ジョン・パトリック氏は、自チームが戦う領域を明瞭に示しています。

選手予算や、獲得できる選手のスキル、サイズ、身体能力を踏まえ、「自分達のチームがハーフコートで戦ったら、元々のチームには勝てない。」と分析。

フルコートディフェンスの精度を高めることで相手を困惑させ、セットプレーのコールをする隙を与えずにフラストレーションを溜めるように仕向けます。

本稿の映像でも、そのようなフルコートディフェンスが垣間見えるのではないでしょうか。

「カルトのような文化」を持つ

①、②、③の特徴を持つ組織は「カルトのような文化」があるといいます。

盲目的で排他的というわけではなく、価値観が明瞭な分、価値観に共鳴できない人にとっては居心地が悪いという意味合いです。

“Think Outside the BOX”することを好まない選手にとっては、フルコートディフェンスを続けるバスケットは合わないでしょう。

自分たちの人件費予算で何倍も高いチームからの勝利を目指すからこそ、このようなディフェンススタイルを採択しています。

そもそも、予算が格上のチームに勝ちたいと願わず、身の丈に合った勝利だけを目指す選手には、きっと居心地が悪いはずです。

また、ジョン・パトリック氏自身、慣れない選手は自チームの練習期間中のディフェンスフットワーク・ハンドワーク等は不快な時間でしょう、と語ります。

35日間の準備の中で徐々に慣れていき、チームがシーズンを戦う中でのアドバンテージになると語っています。

決して満足しない(常に、理念の実現に目を向ける)

優れた企業は、強豪他社との比較よりも、自分たちの理念や理想の追求にFOCUSされます。

ジョン・パトリック氏も「自分達の順位表、週末に対戦するチームの順位表よりも、

練習にプロセスを持つ」ことの重要性を強調します。

また、練習のプロセスにプライドを持つ日々を送る為には、競争を好む選手を選定する事が欠かせない要素とも語ります。①に記載した「誰をバスに乗せるか」とも関係します。

チームでは、サンアントニオスパーズのスローガンでもある「 Hitting the Rock(Pound The Rock)」を大切な価値観とされています。最善の努力を継続する事の意義を説く言葉です。

“When nothing seems to help, I go look at a stonecutter hammering away at his rock, perhaps a hundred times without as much as a crack showing in it. Yet at the hundred and first blow it will split in two, and I know it was not that blow that did it, but all that had gone before.”

「救いがないと感じたとき、私は石切工が岩石を叩くのを見に行く。おそらく 100 回叩い ても亀裂さえできないだろう。しかしそれでも 100 と 1 回目で真っ二つに割れることもある。私は知っている。その最後の一打により岩石は割れたのではなく、それ以前に叩いた すべてによることを。」

また、試合に負けた後や、ミスの次の振る舞いが重要であるとも強調。

「We do what we do,if we play our game,nobody can beat us.then,We’ll have the energy and the toughness to be succesful」(自分たちがすべきことを行うことが重要。もし、我々が、私たちのバスケットを披露できれば、私たちには誰も勝てない。我々はエネルギーを得て、成功するためのタフネスも得るだろう)と語ります。

戦術・人材の選定、プロセスを誇りに思い、強い信念を抱かれているからこそではないでしょうか。

本稿を通じ、優れた成果を出されているチームの戦術や、奥深く緻密な戦術が伝えることが出来ていれば幸いです。

ありがとうございました!

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この記事を書いた人片岡秀一片岡 秀一
株式会社アップセット所属。GSL(ゴールドスタンダードラボ)編集長として記事の製作、編集、各種のイベントなどを多数実施。近年は『Basketball Lab』にて記事執筆と編集、『バスケセンスが身につく88の発想 レブロン、カリー、ハーデンは知っている』・『バスケットボール戦術学』などで編集協力として関与。トーステン・ロイブル氏を講師とするEuro Basketball Academy Coaching Clinicでは事務局を務める。活動理念は「バスケットボールに情熱と愛情を注ぐ人の、バスケ体験の最大化」・「バスケ界にヒラメキを作る」。JBA公認コーチライセンスC級保有(2021年3月にB級を受講)
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