【梅原トレーナーのからだづくり哲学】ケガという病魔 その3
スキルアップ チーム作り トレーニング メンタル(心) 指導法 梅原 淳 練習法 育成法
かくしてスウェットを着てコートの脇へ外れていたケガ人たちを中へ戻し、半袖短パンになって全員参加によるトレーニングを行うことになった。
はじめは休む気満々で、多くのことができないはずだったが、結果はどうだったか?
▼ケガ人のトレーニング
まず膝を過伸展した選手は、スクワット系の脚を鍛える種目以外の主に上半身を使うトレーニングを何度も繰り返していた。下半身のトレーニングが中心なので、そのときは一人別になり体幹や腕を鍛えるものを行った。
手の親指を捻挫した選手は多くのトレーニングを行った。指や掌に強い負荷が掛からなければ良いので、本人なりに工夫をして取り組んでいた。
バーベルなども持ち方を変えるとか、持たずに行えば良いだけのことだから問題ない。テーピングをして不意の事故が無いように準備をしていた。
足首の捻挫も同様にテーピングをして、可能な範囲においては脚を使ったトレーニングも自ら取り組んでいた。トレーニングの一つに雑巾掛けをするというのがあるのだが、それは皆と混ざってやっていたように記憶している。
負荷の強いスクワット系とランジ系はできなかった。他のトレーニングもやってみて痛みがあれば中止した。それも自分自身で判断できる。
その他、頸椎捻挫の選手はほぼできなかったが、腰痛や眼窩底骨折の選手についても出してあるトレーニング・メニューの中から自分のできるものをチョイスして、精力的に時間を過ごしていた。膝の術後の選手は後述したいと思う。
▼練習の中心にいるという意識
選手たちはすべての時間において元気よくまた力強く、負荷の強いトレーニングを取り組むことができた。必要な取捨選択をしただけで、あとはいつもとなんら変わることなく全身全霊の挑戦者としてコートに立った。
練習中の雰囲気も淀むことなく、各自が自分のやれる精一杯の試みをしたように思う。
こうして原則どおり見学者なし別メニュー(別行動)もなし、コートの外で高みの見物をする人間は一人もいない全員参加による充実したワークアウトが実現した。
これが本当の「自分にできること」だと思う。
ただの一度の経験だが、じつに大きな事だ。
▼全員参加
私はできる限りにおいて全員でトレーニングを行いたい。個人的な希望ではなく、それが現実的に必要なことだから申し上げている。
休むための口実にケガを利用する空気がひとたびつくられると、チーム全体の“気”が沈み、選手本人の心もまた弱くなっていく。もうそれは試合に勝てないどころか、チームが崩れ落ちてしまうことにすらなりかねない。
ほとんど多くの場合、ケガと言っても足首や膝など使えない箇所はほんの一部分に過ぎない。今回の例に挙げたチームのケースも同様であり、松葉杖を突くような状態でもなし、ギプス固定をしている者もいない。つまりどの選手も全身に影響があるようなケガではないのだ。
無論、炎症反応(腫れや熱)を持っているような急性期でもない。
たとえ足首の捻挫で脚が使えなくても腕は使えるし、反対に肘や肩など腕のどこかが痛くても脚は元気だ。それですべての活動を中止するというのは、もはや鍛練から逃げる口実としか言い様がない。
加えて言えば、実際にはテーピングをしたり少々踏ん張ったらできてしまう程度の、ごく軽度な症状が多いという現実があったりもする。
選手には悪いが、そこは包み隠さず言うべきは正直に言わなければいけない。
▼ケガと練習と休養の基準を考える
実例に挙げたこの困ったチームも、はじめはできないやらないと言っていたケガ7名のうちじつに6名が、終わってみれば全体と遜色なくトレーニングを行えてしまった。
この日、私から選手に話したケガについての考え方および練習をする・しないの基準はこうである。
「まずは普段どおり精力的に取り組むことを大前提とし、もしそれが現実的に難しいようならば自分で判断して外れるか、その間にもできるワークアウトが他にあれば行う。それを自分で考え判断する」
ケガをして痛みがまだ消えていない間は、所々できない練習はおそらくあるので、そのときは一旦外れるか可能なら中身を変更するようにし、とにかく何をするにせよ自分の精一杯の取り組みをするということを大事にする。
もちろんそれが受傷部位を悪化させるものではないことは言うまでもない。
▼真の理由
じつはその心掛けと行動が、自身の成長にとって大きな価値を生むということを、多くの失敗をしてきた大人はよく理解している。失敗こそ糧である。
楽をするほうにフッと心を流され、自ら線路を脱線してしまうような愚行をしそうになっていたら教えてあげなくてはいけない。本人はおそらくそこまで考えていない。
大切なあなたの夢・目標・志を自ら捨てるのか。自らの目的のために今修練をしているのではないのか。安易に立ち止まらずよく考えてみようと。
それが全員参加でトレーニングを行いたい真の理由である。
(さらに次号へ)
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