局面に応じてチームのスタイルを貫くディフェンス~MHPリーゼン・ルートヴィヒスブルクのディフェンスより11~
本ブログ記事シリーズも残り2回となりました。
引き続き、 本稿ではドイツリーグ及びBASKETBALL CHAMPION LEAGUEにも参戦しているMHPリーゼン・ルートヴィヒスブルクのディフェンスを題材に、同チームのディフェンスの深淵の一部に少しでも近づけるようにいたします。
前記事で紹介した通り、ジョン・パトリックHCは、『「Charging and reloading your team for the new season(新シーズンに向けたチームの準備)」』という題目でドイツでも講演をされ、ご自身のコーチング哲学やチーム作りについて語られるほど、注目を集めています。
一部、重複となりますが、講演会で紹介されていた内容を改めて紹介します。
自分達よりも予算規模で勝るチームに勝利する為、人材の選定を大切にされています。
優勝経験が無く、優勝への強い意思を持つ選手。プロ選手としてキャリアを大きく拡げたいとモチベーションの高い選手を好んで獲得するようにしています。
また、自チームの順位、対戦する相手の順位や予算規模よりも、自分たちが過ごす日々のプロセスにプライドを持つことを重視。競争心に溢れた選手を見極め、獲得する事も重視しています。
反面、コロナ禍では選手の振る舞いや身振り、人柄を推し量る機会が少なく、チャレンジの一つであったそうです。
もう一つは、Think outside the Boxという言葉がキーになります。自分達よりも予算規模で勝るチームに勝利する為、常識に捕らわれない発想や、準備の質を大切にするようです。
そのように、Think outside the Boxで思考できる選手かどうかも陣勢選定のKeyとされている事を強調されます。
また、チームの中で「フォロワーシップ」という概念を明確に定義し、チーム運営で大切にされているようです。
それは、最初の一人が勇気を出して、新しい行動を起こした際に、その理念や勇気に共鳴し、後追いをする行動の重要性です。
講演では、TEDの動画が紹介された上で「私のアシスタントコーチが、私のアイデアを受け入れてくれた時にだけ、私は前に進むことが出来る。キャプテンや選手が受け入れるから、前に進むことが出来る」と謝辞を述べていました。
このように明確に「フォロワーシップ」という単語を定義する事で、チームで大切にしたい価値観が明らかになる面で、非常にユニークだと感じました。
また、以前にも記載しましたが「競争を愛する」・「勝利への意欲に満ちている選手」と同時に「気を遣える」選手やスタッフを重視。Think other people,First」と定義しています。
これはジョン・パトリック氏が日本で過ごす中で学んだ考え方という事です。
実際、ゲーム中の各選手の振る舞いを見ていても「気を遣っている」場面が数多く見られます。
さて、本稿でも同チームの素晴らしいディフェンスを紹介できるように、記載してまいります。
1.プレーの構図
2.プレーの流れ
フルコートプレスで相手チームにプレッシャーを与えたのちに、ハーフコートの攻防に移行します。
トップの位置でピック&ロールから始まります。ピック方向に2名、反対側には1名の味方がいる配置です。
このピック&ロールに対し、X2がポジションを移動させます。
推察される意図の詳細は割愛しますが、ドリブラーのミドルラインへの進行を食い止める意図でしょう。
話を戻します。一度、ドリブラー(ユーザー)は、マークマンの向きや足の運びを見て、スクリナーと反対方向に向かいます。
X1も間に合いましたが、ディフェンスのラインが押し下げられました。
再びミドルライン側にスクリーンを仕掛けます。Fake Rejectと呼ばれるプレーです。
見事にスクリナーにディフェンスをHitさせることに成功しました。
その後、ドリブラー1に対してX5がマークをします。スクリナーの5はゴール下へダイブし、インサイドのX4が対応します。直ぐに、X2も自分のポジションを移動させます。
ボールはウイングからポストへと供給されます。
これに対し、ドリブラーを守ったX5はすぐにダブルチーム用のポジションに位置し、適切なポジションと視野を確保しています。
元々、この選手のポストに対してはダブルチームをするチーム戦術だったのでしょうか。逆サイドコーナーに対しては、前述の通りにX2が連動して対応しています。
ボールを保持する5も、ベースライン側にダブルチームが待っていることを予期していたのでしょう。
ミドルライン側をパワーとボディバランスでこじ開け、リング下でのシュートを放ちました。
3.まとめ
ピック&ロールの攻防があった後に、ダブルチームの攻防がありました。
しかし、以前までの記事で紹介したように、インサイドで優位なオフェンスに対するポストディフェンスのコンセプトは一貫しています。そこに至る道のりが異なっているということです。
ここで、バスケ女子代表チームで使用されているゲームモデルを踏まえ、本攻防の構造を捉えてみましょう。
バスケットボールの競技特性の捉え方として、女子代表チーム・恩塚HCは5つに区分けして攻防を語ります。
それらは、「キャスティング、クリエイト、チャンス、ブレイク、フィニッシュ」と表現され、以下の攻防を示しています。
- オフェンスに入る=キャスティング
- チャンスを作る=クリエイト
- チャンスができた=チャンス
- アタックする=プレイク
- シュートする=フィニッシュ
ここでは、相手チームの『クリエイト』の部分でピック&ロール攻防がありました。
その後、チャンスを作る為の後半戦としてポストプレーがあり、ダブルチームの陣形で防ごうとしました。
もしボールマンが、ディフェンスを引き付けた上でパスを出していれば、クローズアウトのシチュエーションとして「チャンス」の局面になったはずです。
一見すると複雑に見える現象も、時間軸・局面の軸で分ければ基本的に構成されているブロックの各要素は同じです。
本ディフェンスを通じて感じたのは、非常に規律正しく訓練されている事と同様に「気を遣える」選手を集めたことも影響しているのではないでしょうか。
一定以上の競技レベルでは当たり前のことかもしれませんが、各選手のおかれた状況を理解しているからこそ、それぞれが適切なポジションを即座に取ることが出来ます。
チームの理念とコート上の状況が合致した、非常に素晴らしいディフェンスといえるでしょう。
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株式会社アップセット所属。GSL(ゴールドスタンダードラボ)編集長として記事の製作、編集、各種のイベントなどを多数実施。近年は『Basketball Lab』にて記事執筆と編集、『バスケセンスが身につく88の発想 レブロン、カリー、ハーデンは知っている』・『バスケットボール戦術学』などで編集協力として関与。トーステン・ロイブル氏を講師とするEuro Basketball Academy Coaching Clinicでは事務局を務める。活動理念は「バスケットボールに情熱と愛情を注ぐ人の、バスケ体験の最大化」・「バスケ界にヒラメキを作る」。JBA公認コーチライセンスC級保有(2021年3月にB級を受講)
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