【梅原トレーナーのからだづくり哲学】練習の上達は脳でつくられる(中)
脳が練習の上達をつくっているとはどういうことか。(参考)【梅原トレーナーのからだづくり哲学】練習の上達は脳でつくられる(上)
私たちはそのときの集中度や真剣さによって、ひとつひとつの行為行動をどの程度でおこなうかが変わる。
丹念に練習することもあれば、そつなくこなすこともある。これは練習の強度には関係なく、自分が100点満点のプレイを目指しているか40,50点程度で構わないとしているかの差である。
練習のなかで「もっと腕を振って」「もっと脚を上げて」「一歩をここまで出して」と課題が出たとする。それを中途半端に大体でやり過ごしていれば、いつまでも技量は伸びない。
その課題の100点満点を取りに行ってはじめて身体は反応し、能力が向上する。
具体的なポイントを甘く見て曖昧に片付けていれば、いつまで経っても技量が磨かれていかない。それは才能や遺伝とはまるで違うことである。
だから誰でも「もっと成長できる」と私が常々申し上げているのには、ここにも根っこが繋がっている。
みんな結構テキトー
人間はそもそも大まかに生きる存在だ。とくに強く望まなければ、必要以上に頑張ることはしなくたって生きていける。生命が比較的安定して存続できる人間は、基本的にかなりテキトーな性格をどんな人でも秘めている。
その原理から言えば、スポーツにあっても余程の自覚的な目的意識がないかぎり、目の玉を見開き、耳をそばだてて練習にあたることは少ないのかもしれない。
さらにいまは教育が「落ちこぼれない」「はみ出さない」「安定する」ことを是とするような面が強く、部活動でもその目的が習得や上達ではなく「皆と同じレベルでいること」になっている様子が見える。
私がレッスンをしていても、ピンポイントにアドバイスをすると選手は「はい!」と大きく頷くものの、それはポーズで頭の中はまったく活性化されていないことがよくある。
なにをどう教えても、同じワードを何度繰り返しても、細部に分けた練習をつくっても、ただ変わらぬ時間が流れるだけなのである。
上達しない人の行動基盤
もはや毎度の繰り返しにおける習慣化によって、脳をある程度しか動かさずに大体の出来でプレイすることがすべてとなり、自分でも意識なく「いつまでも程々なパフォーマンス」を続けてしまっている人は、案外に多い。
そして本人がそれを認知できないところが、また苦しい。
ほとんどの選手において、返事は元気よく、目もしっかり開いていて、必死な表情もうかがえる。でも私のアドバイスや巧い選手の手本は、まるでそのエッセンスにならない。
なぜなら脳の回線が遮断されているからだ。
返事はしても話の中身は頭に入っていない、顔は必死でも具体的になにをどうすれば良いかは把握できていない、良い参考材料があっても周囲の様子にはほとんど気を向けていない、だからつまり情報をインプットしていないのだ。
平均点がその人の行動の軸となっているから、脳と身体はその分しか稼働しない。スイッチがオフになり感受性が下がっている状態なので、良き情報(アドバイスや手本)があってもそれを活かすことはできない。
練習において、技量というものはよく観察しよく実践して、身体で感じることで伸びていく。脳が冴えて鋭くなっていることで、体験的に得た結果についてこれは良いこれは悪いと認識がつくられ、その情報が蓄積されて少しずつ技が磨かれていく。
技術の習得とは、ひたすらこの継続だ。
そういった意味で、私は日頃から選手らに「遺伝や才能なんてものはない」と言っていて、そんな理由よりも自分の脳を眠らせて身体にインパルスが走っていないほうに根っこがあると考えているから、意識的に強くインパクトを与えている。
なぜか突然うまくなる
先日の練習では、2時間にもわたってジャンプ動作をレッスンした。
はじめはジャンプの型からおこない、段々と難易度を上げて最後は数人で組んで連続タップまで進めていった。
ある瞬間から突然、選手たちは動作が良くなるのだが、それは終盤でありほとんどの時間はなにをどうしても一向に身につく気配がなかった。一段ずつ階段をあがる様子もなく、本当にいきなりパフォーマンスがパッ!と変わったのである。
脳がその気になり活動を盛んにすると、それまで眠っていた本当の力が発揮される。これは伸びたというより、目覚めたというべきだ。
僭越ながら、私が仕掛けを入れて目が覚めざるを得ない段階へ、選手らを誘導していった。
いつも必ずそうなるものでもないが、ただアクションしないうちは1mmも現状は動かない。リスクはあるが、するほかに方法は無い。
さて一体、なにを仕掛けたのか?
さらに次号へ続けよう。
(つづく)
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