【梅原トレーナーのからだづくり哲学】暑さ対策の間違いを正そう(上)
10年ほど前、体育の授業や部活動の最中に熱中症で倒れる生徒がたくさんいて、水分補給について強く注意喚起されるようになり、また学校の教室に冷房を設置する動きが全国的に起こった。
昨今の異様な暑さ、あくまで自然現象である気候の変化ではあるが、夏の気温がたった30年前と比較しても大幅に上昇していて、これを放置してはいけないとなり、行政として対策を打つ流れが生まれた。
あまりに暑い!限界だ!エアコンで涼しくしよう!
そうしていま日本の家庭や会社や学校で、さらにデパートなどの商業施設など、あらゆる建物の室内はしっかり冷えている。
室内だけではなく電車、バス、車、飛行機など、乗り物も冷房が効いて快適な環境を提供してくれている。
私は以前から、この先に起こる生活上のリスクを指摘してきた。
冷房を多用することにより起こる体の不調、暑さ対策における程度の麻痺、スポーツ活動への支障を予知していた。
とくに学校で教室にエアコンが導入されはじめた頃に、暑さから身を守るために冷房の設置が必要だという意見に対して、そこから先の新たな問題を今のうちから同時に考えようと言っていた。
その頃はまだ「さすがにこの暑さはマズいから冷房をつけるべき」という段階に留まっていて、付けたら解決というのが世間の気運であった。
それは違うと申し上げ、誤った暑さ対策が世の中に定着してしまう可能性を指摘して、数年が経ち現在まさに言ったとおりの冷房リスクが、私たちの体を苦しめている。
はじめから見えていたこと
この夏休み中、練習が始まると最初の30分ですでに選手は息が乱れ、膝に手を着き、動きも緩慢である。私が知るのは、屋内競技の選手たちだ。
開始早々のウォーミングアップの段階、フットワークの段階から、見るからにゼーゼーハーハーと息を荒げて危なそうな選手がいるし、全体的にも表情がうつろである。
皆はじめから辛そうなのだ。まるでハードワークをして終わり間近であるかのような雰囲気で、最初のウォーミングアップをしている。
これではとてもじゃないが練習にならない。私はわずか開始40分で選手を全員、体育館の外へ出して日陰で風に当たらせた。もちろん塩分と水分も摂らせつつ。
ひとつの例としてあげたが、こういったことは全国の部活動で起こっている普段の様子である。特別な事例などではない。
多くの部活動において、練習を始めようとするといつもスタートからすでにして苦しそうな選手が何人かいる。全体的に見ても、気力が上がっていない様子が映し出される。
昨今の異常な暑さのせいか?
いや違う。これは完全に予期できていたことなのだ。
冷房のせいで体力が無くなった
エアコンを学校に導入して教室を冷やすこと、家で部屋を冷やすこと、その適切な程度を考えて使える人はそう多くないと、当初から予測していた。
誤解の無いようにしたいが決して賢さの話などではなく、私たち人間の心には苦から逃れたい願望が強くあり、さらに快を欲すると止まれなくなる衝動を持っている生き物なのだ。
つまりなにを言いたいのかというと、あまりに室内と自らの体を冷やしすぎて、夏を乗り切る体力が完全に失われてしまったということだ。
暑さから逃れようとする気持ちが、ついつい度を越して冷房の温度を下げすぎてしまい、延々と冷たい空気に当たり、さほど必要の無い気温でもすぐ冷房を入れてしまう。
どうしても夏にはこういう行動を取りがちであり、便利であれば依存し際限が無くなってしまうことは充分に予見できる。
本当は皆それを解っているはずなので、転ばぬ先の杖を持ち、その場の欲に流されず程々に抑えて必要な分だけにとどめるのが健全だ。
ただ現実には冷房を効かせ過ぎる人が圧倒的に多いだろうと、はじめから予想していた。しかしそれはごく当然の懸念だろうとも思う。
本当の暑さ対策を考えよう
冷房を効かせ過ぎないよう意識的に努めている人はこの暑さでも活発にスポーツ活動を行えるし、選手らの中にも少数だが元気な子はいる。
そういう選手は暑くても力がみなぎっていて良い練習となるので、日々技量を進歩させていける。
反対に暑さにバテバテの選手は唯々それに耐える時間でしかなく、もはや練習の意を為していない。体を危うくしているだけであり、そうならないよう手を抜きやり過ごすだけの時間となる。
この情況をそろそろ改善しなくてはまずい時期に来たと、現場に出続けている身として強く実感している。
それはたんなる勘や感ではない。実際に運動などとてもできそうもない体調の選手が、いまや半数以上となっている。反対に多くが元気に練習しているチームは、残念ながらごく少数だ(本当はゼロと言いたい)。
暑さを我慢しろ、ということを言っているのではなく、冷やしすぎた弊害を考えたい。次回にもう少し掘り下げていこう。
(続きは次号)
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