【梅原トレーナーのからだづくり哲学】運動能力は脳がつくる(4)
スキルアップ トレーニング マインド(脳) ライター 梅原 淳
脳を鍛えるというフレーズは珍しいものではなく、脳トレなどと言って少し流行りにもなりました。
スポーツの分野では、主にイメージトレーニングのことを指すものだと私たちは認識しています。でもイメージはあくまで頭の中だけで完結するものです。
またはメンタルトレーニングの中に、「自分はできる」と言い聞かせたりする脳への働きかけがあります。
いずれもいま話している「脳が運動能力を決める」こととは少し違います。脳を鍛えると言っているのは、自分でも気づいていない固定したスケールを壊すことを指します。
運動能力を伸ばすためには、まず脳に完成形をインプットすることが必要です。一番簡単なのは、現実的に上手なプレイを五感で感じることです。
映像で手本を繰り返し観ることも良いですし、練習の場がすでにレベルの高い環境にあれば、肌で間近にそれを吸収することになります。
実際のものに直に触れて、からだが自然と馴染んでいくことが「脳へのインプット」そのものです。
手本を見つける習慣のある人は伸びる
同じ環境で練習していて、技量の伸び方に差が出ることは必然です。これはポテンシャルとか遺伝などではなくて、周囲を見て頭の中に手本・見本を入れている人と、ちっとも見ていない人の違いです。
意識しておこなっていることは少なくて、ほぼ幼い頃からの学び方の習慣に因ります。人によって物事の学び方が独自にあり、自分で興味津々にものをよく見て主体的に情報を入れてきた人は、周囲を見て学ぶことが習慣化されています。
レッスンを受けて出された問題を解いて鍛えられた人は、自分から情報を得るくせが弱くなります。勉強の仕方というのは日常生活でつくられた習慣なので、それのある人はつねに外から情報を得るアンテナが立っていて、自然と人のおこなっている様子を観察しているのです。
自分より上手な人と一対一をする
自分のスケールを大きくしたければ、チームの中で自分よりも上手な人を見続ければ良いのです。ひたすら観察することで、脳にその映像がインプットされます。
さらに一緒にプレイすることが、脳をより強く刺激します。目で見ながら同時にからだも動かすわけですから、脳とからだを平行して鍛えられます。習うより慣れろというのは、このことを言っています。
対人でおこなうバスケットボールの練習があると思います。3メンや2メンなど走るドリルがあれば、上手な人と一緒に行いましょう。
一対一の勝負を、レベルの高い人と組んでやってください。自分をそれに近づけていく最短の方法です。
ゲームをおこなう場合も、目的はその時々で変わりますが、まず大前提としてパフォーマンスで上回る相手とすることが欠かせません。スピード感、スタミナ、ボールワークの技量、コンタクトの強さなど、基本的な体力要素はつねに自分よりも上の選手・チームを選ぶことです。
環境をつくることで自然と脳がスケールアップしていきます。
空間を広げる
もうひとつだけ、具体的な脳スケールの鍛え方を教えます。これは脳が鍛えられた後にからだが変わるのではなく、その瞬間から実際のパフォーマンスを大きく変える方法です。
対人で一対一や五対五の練習をするときに、自分の行動範囲を意図的に広げてみましょう。プレイひとつずつについて、自分の慣れている空間の大きさというものがあって、じつはほぼ完全に固定されています。
それが運動量ともなりえるのですが、個人(一人)でもチーム(五人)でもプレイを展開する広さというのがいつも同じなのです。
これは「使うスペース」と言うと分かりやすいでしょうか。五人でオフェンスをするときに自分たちが使うコートの面積が一定になっていますので、それを広げるという方法です。
簡単ですよね、空間を広げるだけです。ドライブをする距離、ボールミートの距離、パスを繋げる距離、ピボットを踏む幅、方向を切り返すときの振り幅、そういった自分の使っている空間の広さをもっと大きく取るというものです。
しかしながら、これがなかなか出来ません。
自分の動作を大きくするためには、空間の広がりを知っていなくてはいけません。でも脳にインプットされた空間があって、その範囲内のプレイに収まってしまうのです。
おこなってみれば、すべての人がこれを実感するはずです。
まずは小ささを知ることから
それでなにを得られるかというと、いかに自分の空間の使い方が小さいかを知れます。そして自分のプレイがこじんまりしていることを痛感するでしょう。
大きさを知るということは、同じく小ささを知ることでもあります。脳に大きいスケールをインプットすることに併せて、プレイが小さいばっかりにせっかくの空間と能力を捨てていたことに気づけるのです。
自分のいまの状態を知る方法は、脳へ新しい情報を入れることです。それはよりレベルの高いものを知ることだけでなく、レベルの低さを実感することも同じであり、そこに脳が気づくと「じゃあどのあたりが本当なんだ」と次の行動を始めます。
脳が探し出して自分のできる本来のプレイスケール、現在の能力の上限へ近づけられるわけです。
実際は多くの選手が本当のパフォーマンス能力を抑えたままであり、無意識に小さなプレイをしています。自分で勉強する脳の人は、それを自ら更新していってプレイスケールを伸ばしていくでしょう。ただしそれは少数だということです。
しかしこのレポートを読んだあなたは、今日から脳を鍛えまくってスケールを広げていけるはずです。まずは上位者へ果敢にチャレンジしましょう。見て勉強です。
脳で運動能力を伸ばして、まったく新しい感覚でバスケットボールを楽しめることを願っています。
全四回にわたり、読んで頂き有難うございました。
(了)
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