【梅原トレーナーのからだづくり哲学】引退した先輩からの宝物(下)

スキルアップ チーム作り 指導法 梅原 淳 育成法

高校バスケットボールは今、ほとんどの学校において代が替わり2,1年生のいわゆる新チームとなりました。

またゼロからの出発と誰もが疑いもなく受け入れていますが、本当はゼロでは無く過去のすべての汗を材料にしてさらに自分とチームをビルドアップさせていけます。

それができていないチーム・選手が圧倒的多数だと、前号で問題提起致しました。

私の実体験を公開可能な範囲で紹介するとともに、みんなで考えるきっかけにしたいと思っています。

あるチームで高校生たちに「せっかくこれまで頑張って鍛えてきたのだから、この間までのことを無しにしないで、ずっと繋いでいこう」という趣旨の話をしました。

先日引退した3年生が残していってくれたものをちゃんと受け取って、それをさらに膨らませていこうということです。それは次に来年のチームへ受け渡します。

強くなるチーム、安定して上位に入るチームには、そんな宝物があるのです。

▼実際にどのようなことか

参考例として、このチームではどんな宝物があるのか、私から見て感じることをお話します。

ズバリ、あなた方の強みはストレスに耐える力です。耐えて乗り越えて、体力的要素をしっかり身につけています。

それができる「頑張り」が3年生の宝物です。

これは個々に、3年生一人一人の性格だと見ては失敗です。実際にその頑張りをみんなで一緒に作ってきました。3年生だって1年生の頃は挫けていたし弱っていたし、辛さに心も体も負けていました。

それが月日を重ねるごとに粘れるようになり、はね返すようになり、肉体的・技術的に逞しく成長しました。

いまその途中にあるのが現2,1年生ということです。

▼生命線は2年生

この「頑張れる力」を作ったのは現3年生ではありません。その1年前の3年生、さらにその1年前の3年生、つまりすべての先輩たちの尽力で育まれてきたチームの魅力です。

魅力とは武器です、強みです。それがあるからこそ、今の私たちが育つことができます。

ということは、ここからそのバトンを受け取るのは・・・

そう2年生です。

2年生が3年生からの宝物、すべての卒業生たちの手で作り上げてきたチームの柱を正しく認識しなくてはいけません。

これをもし受け取らなければ、もはや一生チームは芽を出せません。

たまさか技術力のある選手が数名揃って勝つなんてほぼ起こり得ない偶然のことを、芽が出たとは断じて言いません。

芽は自分の力で伸びて成長するものです。いま私たちはそれをしている。だから芽を出すために、2年生は絶対にこの繋いで来ている宝物を見落としてはいけません。

▼引き継ぐべき事と変えるべき事

私はこの日の練習の冒頭で、引き継ぐべき良いものと断つべき悪いものについて話しました。

引き継ぐものについては、前回と今にお話したとおり。

悪いものは、新チームになるといつも雰囲気が暗くなって生気が抜けたような様子になることです。

やる気のある顔ではなく、かといって辛く苦しそうな表情でもありません。なんとも表現しづらいのですが、感情のないロボットが動いているような印象です。

昨年もその前も同じ空気感がありました。ちょうど代替わりの最初の頃です。

もっとも大会が終わり、頼りにしていた先輩が抜け、目標と柱を失ったというのは理解します。ポカンと穴が空いている状態なのかもしれません。

その状態であることを自分で意識できている選手は、正直少ないと思います。どうしても流されがちなのが人間です。子どもならば、なおのこと。

大人が少し手綱を引いてあげても良い部分だと考えます。

▼大体が真逆になる

これをそのままにしてしまうならば引き継ぐべき宝が失われると、聡明な読者のあなたならすでに察したはずです。

大変なのは、多くの場合変えるべき事と大事に残すべき事が反対になってしまうところです。

だらしのない部分やずる賢い部分など、心の未熟なものは少しずつ成長させていく必要があります。それを引き継いではいけません。

しかし人間は弱いもの。どうしてかいつもその悪い部分のほうが似てきてしまいます。何年経っても代わり映えのない人、成長の無いチームというのはこういうところに問題があるのです。

▼宝物を見誤る

もうひとつに、大事にすべき宝を間違って見ている場合があります。

誰しも華やかで格好の良いものに目を向けます。辛く苦労のあるものは避けたいし忘れたい。でも本当に力をつけてきた部分は後者です。人知れずそこの頑張りと克服があってこそ、人は強くなっていくわけですね。

たまたま良い結果が出たこと、面白おかしく気楽にやれたこと、そういう易いものに意識が寄ってしまうと怠けることばかりが多くなるものです。

本当に受け継ぎ守っていくべきこのチームの宝は、自分たちにしかできない頑張りによって数々の不可能を可能に変えてきた成長にあると、私は胸を張って選手たちを応援しようと誓っています。

▼新チームのみんなへ

昨今、自分のことばかり見てもらいたい人間がどうやら増えてきたようです。これは自己肯定感の低さにあるのかなと、私なりに感じています。きっと大人も子どもも両方です。

それでは宝物を受け継ぐことなどできません。先輩の残したものと、自分がこれまでやってきたことすら簡単に放り投げて、自己成長の機会を失ってしまいます。

チームに所属して練習すると言うことは、その環境がさらなるパワーとなります。どんなパワーを持っているのか、それはチームにより色が様々です。

あなた方の色は人一倍いや「人三倍頑張れるタフさ」にあります。それがチームの支えなのですから、今年もそれを大切に守り、さらに磨いて人四倍にして次世代へ繋いでいきましょう。

最後はチームへのメッセージとして聞いてもらいました。これを読者ご自身のことにどうぞ置き換えて、また考える材料にしていただけたらと思います。

We are one team all.

(了)

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