【梅原トレーナーのからだづくり哲学】読書のススメ(1)

スキルアップ 指導法 梅原 淳 育成法

あなたはこれまで本をどれくらい読んで来られただろうか。ご自身の生活の中で、読書をするという行為は馴染みのあるものか、それとも滅多に無い特別なものか。

不肖私はトレーニングコーチという立場において、まるで教師や親であるかのように子どもたちへ読書を勧めている。

それはまさか私個人が読書好きだからではない。個人の趣味を以てその感覚を押し付けようなどとは、微塵も思っていない。

そもそも私はさほど読書が好きではない。ただ読書で得られる素晴らしい力というものは素直に実感していて、だからこそ強く信じてもいる。

読書はきっとあなたの心身の基礎を作ってくれることだろう。人生をたくましく生きていくために、幼い頃から本を読む訓練をすることは尊い価値があると断言する。

それは私が毎日、日本の部活動を見てまわっている中で、肌身に染みて感じることだ。

正直に申し上げて、子どもたちは見たり聞いたり実践したものを、自分なりに育てていく力を失っている。私が言っているのは主に高校生もしくは中学生の年代についてだ。幼稚園児や小学生の話ではない。

すでに社会に出て働ける年齢であるときに、知識を活用する力と自分の意思で道筋をつける力をまだ持てないでいる。それを日々、強く実感する。

たとえば、練習をしていて何か新しいことを教える、もしくは具体的に説明をする。その説明したことを安易に言葉のままでしか受け取らず、言わんとしている本筋を知ること、一つの話を別のものとリンクさせること、もっと自分で深く考えたり解釈したりして、得た情報を自分のものにすることをしない。

しないのか、しようとしてできないのか、することを知らないのか。とにかく自分でさらに進めようとする意欲および行動がほとんど見られないのだ。

何事も浅く、なんとなくでしか行わず、だから言葉を大雑把に聞くもしくはあまり聞いていないので、日々練習している内容がなかなか熟していかない。時間をいくら掛けても、出来はいっこうに良くなっていかない。

これは運動能力、運動センスがないという話とは違う。持った情報を自分で活用して次への何かに役立てていく行動力やその習慣を身につけていないことを示しているのであり、育つ力の弱さと言える

自分で好きでしている事でこうなのだから、他でも同じだろうと思う。

▼頭の良し悪しではない

さらにこれは受験勉強的賢さ、つまりテストの答えを当てるための知識とも違う。受験勉強、テスト勉強のための知識の詰め込みと、思考を深める力や膨らませる力の訓練はまったく別のものだ。

学校で勉強しているからといって、それはもしかしたらペーパーテストで良い点数を取る対策に過ぎないかもしれない。答えを当てるための手当たり次第の詰め込みなど、肝心なときに難局を乗り越えたり自分を高めたりする力には決してならない。

私は学力偏差値の高い学校、低い学校、中くらいの学校、すべてに関わっている。そのどこにも共通した話を申し上げている。いわゆる問題の答えを当てる能力としての頭の良い悪いは、自分を育てる力とは異なる。

だから学校で国数英社理を中心に勉強していることと、自ら本を読むことは根本的に違うと言って良い。進学校であってもせっかくの頭の良さを、物事を前進させるエネルギーにできていない子どもは多い。

部活動で私が教えるごく単純で拙い知恵や方法を、自らが活用するために取り込んでほしいが、子どもたちは自分からほとんど動かないのが現実だ。

繰り返すがこれは動かないのか、動けないのか、それとも動けるのにしたがらないだけなのか。

▼読書を勧める理由

私が本を読むことを勧めるのは、情報量を増やすためではない。またそこから偏ったものの見方をするようになってほしいとも思っていない(※本にはそのような側面もあるから注意してほしい)。

読書とは本来、読んだ内容を記憶することに何かがあるというより、そこから自分で思いを巡らせたり深く考えたりすることに意義があると、私は思っている。

本がどんな内容であっても物事を考える主体は自分自身であり、その立ち位置から読んで自分のステップアップに繋げることが、本を読む目的だ。

情報としてただ持っているとか知っている、それだけでは知識の意味はない。知識を得てさらに調べたり、工夫してみたり、自分の考えを改めたり、別のものと紐付けて役立てたりと、自助力を養うことが肝心なのだ。

読書はそういった「自らおこなう力」を鍛えてくれるものだと思う。

▼授業と読書の違い

読むという行為がすでに、自助力の第一歩となっていることにお気づきだろうか。知識は勝手に入ってくるものではない。本人がインプットしようとしなければ手に入らない。

しかし授業や部活動では、教える人がいてそこから他動的に情報が発せられる。もちろん教えてもらったことをインプットするのは自分自身の力であるが、まず得るべきものを他力で得ていることは大きなマイナスだ。

本を読むことは、すべて自分から行動しなくてはいけない。文章を読む行為、内容を理解し解釈する行為、ページをめくる行為、それは「自分で調べる」ということと同義だ。

誰の手ほどきも援助もなく、すべての行為を自分でするから、その力が養われる。読書を親しむ者は、自分で学び育つ力を携えている。これは人生を豊かにするための絶対的な素養と言える。

▼自力と他力

学校の授業は主にどうであるか。

授業に出ることは任意であり、本当は自分の意思でそこにいるはずなのだが、現実には「しなくてはいけない」「行かなくてはいけない」ものだから出席している人が多いのではないだろうか。

意欲的に「今日も知識を沢山増やすぞ!」と主体的な意思を自覚して座っている人が、いったいどれほどいるだろう。

決まりだからそこにいるという前提で、さらには自分が何をせずとも新しい知識、情報を他人が教えてくれる。自分ではそれをただ記憶するだけである。

学校や部活動へ来なくてはいけないという規則と、知識を与えてくれる教師やコーチがいること、それらがもし無いとしたら、あなたは果たして学ぼうとするだろうか。

そういったことから、自分から読み進めて知識を得る読書と、外から情報をもらって記憶するだけの授業や部活動と、力の培われ方はまるで違っていると言える。

そこで備わる能力も歴然としている。自助力は生きる根幹だ。

▼「2」へ

ひと続きで書き切るつもりだったが、一度では終わらなかった。文字数が通常より1,000字ほど多くなってしまっている。

あまり長くなると、パソコンやスマートフォンでは読みづらいと思うので、タイトルを修正して(1)(2)と二つに分けることにする。

次号で、さらに考えていきたい。

(了)

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