【レビュー4】「ディフェンスは楽しい」と選手に認識させられる指導法
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バスケットボールを取り巻く環境が変化している。
コーチも選手も変化に適応していかないと生き残れない。
特に、コーチは選手に対して、決して小さくはない責任を持つ。
コーチの学びが深まれば深まるほどに、競技者のバスケット人生に彩りを加えるはずだ。
必ず試合に勝てるというわけではないが、その陰影は深くなるはずだ。
今回は、2つの視点を軸に、本影響教材が選手に与える刺激について自分の考えを紹介したい。
■練習時間の現象。受け取れる情報量の拡大。競技者を取り巻く環境の変化
現在は、練習時間が非常に少なくなっている。
強豪チームであれ、地域のジュニアチームであれ、それは変わらない。
短い時間の中で、いかに効率的、論理的に練習を組み立てるのか。
それこそがコーチの腕の見せ所である。練習ドリルの中にメッセージを積み込み、選手の学びを大きくすることが求められる。
反面、選手がアクセスできる情報量は圧倒的に増えた。
映像資料や、参照可能な資料は多岐に渡り、一昔前とは比較にならない。
映像を見た選手は様々な刺激を受ける。
自分のプレー、自チームのプレーに思いを巡らせ、イマジネーションを膨らませる。
その時間を有効活用しない手はない。
そんな時代背景の中、星澤氏の提唱するDF理論は効果を発揮する。
『時間を奪う』と指針が明確な為に、選手はDFにおける指標を持ちやすい。
毎回の中で、良質な振り返りが出来る。
全体の練習時間が短くなったのであれば、より効果的なPDCAサイクルを回せば良い。
コーチのフィードバック、選手自身の振り返りの精度を高める事で練習時間の効果を最大化できる。
練習後にも成長の機会が待っている。
再び、自分のプレー映像、またはインターネットでハイライト映像を見る際にも、一定の基準と共に視聴が可能だ。
ある程度の基準を持っているからこそ、到達できる領域があるはずだ。
練習効果の最大化し、事後のイメジネーションの活性化。
その両者を組み合わせは、長時間に及ぶ無機質な反復練習や、訓練を凌いだとしても不思議ではない。
何度も繰り返すが、シュートの成否だけを基準にする事は危険である。
そのプロセスの価値や合否が分かりにくい側面がある。究極的にはシュートを落とす事、または打たせない事が重要である。
それは間違えが無い。しかし外的要因の影響力が思いのほかに大きい。
例え、DFを頑張っても、決められる事もある。例え、頑張らなくても、シュートを外してくれることもある。
もしかすると、散漫で怠惰なDFプレーが目立つ選手の中には、過去に「成功体験」があるのかもしれない。
DFを奮闘しなくても決めなかったという「成功」を。
勿論、その「成功」は儚く、実体のない幻想だ。
時間は目に見えない。しかし、計測可能で、絶対的な指標である。
それがゆえに、常に分かりやすい。ここに基準を置く事は、選手が明確な指針を手に入れた事を意味する。
一度の微差が、やがて大きな差となって表出するだろう。
バスケットボールのDFは非常に奥が深い。
相手のドライに対し、コースに入れたかどうか。
ドリブル後、シュートのスペースを与えない為にスペースを詰める。
相手がボールを供給したい選手へのパッシングレーンを消し、パスを選択させない。
On ball screenでHard Showをし、ドリブラーを遠回りさせた。
ロールマンに対しても3人目のDFがコースを潰した。
スティールにはならなかったが、余分なパス回しを発生させた。
最終的に、相手は難しい体制でシュートをするしかなかった。
または、最後のショットに至る前を想像しよう。
必死のローテーションでシュートチェックに間に合う。
シューターはフェイクをし、ワンドリブルジャンプシュートを試みる。
その瞬間に24秒ブザーが鳴った。
これらは、誰のスティールにも記録されない。
ボックススコアにも記載されない。選手一人一人の適切なDFによって達成できたチームDFである。
影の頑張りも、それを正当に評価しなければ、いつまでも続けられるものではない。
時間を指標とする視点を持てば、正しく頑張る選手を正しく評価できる。
■U15世代でのゾーンDF禁止。マンツーマンの攻防が若い選手の焦点に
バスケット界の大きな変化である。目的は、年代に応じた個人スキルの習得、長期的な視点に立った選手育成だ。
バスケットボールの基本は1対1である。
若い選手に最優先されるのは、1対1の能力であるというメッセージだ。
何よりも、「目の前の選手を止める事が出来た。嬉しい。決められた。悔しい」そんな競技の楽しさをシンプルなに、かつダイナミックに味わってほしいという想いが存在する事を関係者に伺ったことがある。
その繰り返しが、血湧き、肉躍るような感情の起伏を生み出すという。
そこで湧き出る闘争心が選手の好奇心を刺激し、さらに競技の本質を掴んでいく助けになるという。
しかし、草の根になればなるほど、ベーシックなマンツーマンDFを指導できるコーチは決して多くない。
年齢が低ければ低いだけ、消極的なDFをしていてもマイボールになっていた。
ときに、真面目なマンツーマンDFはリスクが高い戦術にもなりえる。特に3Pシュートの無いU12世代は顕著である。
勿論、戦術の選択は自由だ。
しかし、選手は次のカテゴリーへ進む。
自分が指導するカテゴリーでは勝利できたが、次のカテゴリーのコーチに「選ばれない」。
これでは寂しい。試合にも勝つ。
そして、「選ばれる」選手を育ててこそ、コーチの存在意義がある。
積極的なDFの完成を持つ選手にリスクを抑えることは出来る。しかし、その逆は難しい。
星澤氏の提唱するDF理論を学んだコーチは、選手にギリギリの境地を伝達できる。
積極性を持ちつつも、不用意はリスクは侵さない。リスクをマネジメントする感覚を持つはずだ。
それは、そこに「秒数」という概念があるからだ。
いたずらに時間と自由を明け渡すのではなく、ジワジワと苦しめ、時間を浪費させる。
予測、反応、ハッスルで相手の時間を潰す。ひいては、相手の成功率を奪う事になる。
それらを、毎回のDFで繰り返す。コーチ自身も分析すると共に、選手と共に考える。
そして、また次のDF、次の練習、次の試合へと挑み続ける。
そんなコーチの眼前には、老獪さと、知性を兼ね備えた、純粋無垢にバスケットボールを楽しむ選手の姿が拡がっていると確信する。
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