育成期に能力を伸ばしたいなら(中)【梅原トレーナーのからだづくり哲学】 トレーニングレポート No.119
前回の続きです。育成期に能力を伸ばしたいなら(前)【梅原トレーナーのトレーニングレポート No.118】
バスケットボール的動作ではバスケットボールのパフォーマンスは上がらない、という話をしています。
私は高校のときに、二人いたバスケットボール部顧問のうち一人から、シュートの構えについてこう言われました。
「腕のカタチはみっつの90度」
- 脇の下90度
- 胸から腕にかけて90度
- 肘が90度
精確には覚えていないのでご容赦ください。大体このような感じのことを言われた、という程度で解釈してもらえればと思います。
シュート・モーションの具体的なコツなどを教えてくれたわけではなく、そうしなさいとただ言われて、たぶんそのときは少し試した程度で結局ほとんどは自分なりに手探りで練習していたと思います。
もともと体に馴染まない無理のある方法は好きではなかったので、それを教えてもらったときもあまり素直には聴いていませんでした。
これは軽い話で、読者の中にはもっと特異な動きや構えを徹底された経験をお持ちの方もいるだろうと察します。
ディフェンスの足は変わらない
これは何を物語っているのかと言うと、それらが良い悪いという話ではなく、専門競技になるとそこだけで通用する特殊なものが必ず生まれます。運動能力、運動技術についてもその呪縛に囚われてしまいます。
ディフェンス力が伸びなくて悩んでいる場合に、限りなく部分的にだけ問題点を探してしまうことが多く、それが個人の技量面で言うと「一歩目の蹴り方」であったり「コンタクトの強さ」であったり、「構えが浅い深い」などに目がいってしまいませんか?
その視点で、バスケットボール的なディフェンス・フットワークを取り入れて毎日トレーニングしますが、ただ量的にこなしているに過ぎず、足はまるで動くようになりません。
それで大体の人が諦めてしまいます。他に手立てを見つけられないからです。
諦めずに模索したとしても、組織的にフォーメーションや仕掛けをつくって「策」で補うことに視点を絞るチームが多いでしょう。
つまり選手個人の運動技術能力の面では、ディフェンス力を育てることは捨てたということです。
動きの型よりも目的を活かす
私がある中学生のクリニックをおこなったときの話をします。
バスケ部の監督さんからディフェンスが弱いのでなんとかしたいと相談を受け、具体的にどのような場面でそれを感じるか、また実際にどのあたりが弱いかなどをヒアリングしました。
その上で当日、選手らにオールコートで一対一の攻防をおこなってもらい、そこから足づくりのきっかけをつくるクリニックを進めていきました。
二時間程度の実技でバスケットボールっぽく練習したのは最後だけで、ほとんどはただ身体の向きに意識を向けたり、そのためにどうやって足を運ぶと良いかを考えたりと、固定した思考やパターンをあえて排除して自由をつくってみました。
ただし「胸を相手に向けること」「つねに正面に立つこと」といった目的だけはきちんと定め、各々がオリジナルに動作を工夫してそれを果たす努力をしました。
そうすると、どんな足運びが良いか、なぜ自分は動けないのか、そういった道筋が自然と見えてきます。プログラムされた動作ではなくて、工夫することに汗をかくことになります。
バスケットボール的な「このステップを覚える」みたいな発想よりも、「目的を達するために必要な動き方」を自ら探っていくもしくは生み出していく創造性を活かしたトレーニング方法を、私は採用しています。
他の球技でも同じ
自由にプレイを創り出していくと、自分のやれていないことになんとなく気がつきます。
体力的また技術的になにが必要なのか、目前にスッと顕れたものについて鍛練をおこなっていけば良いのであり、あまり「バスケットボールでのディフェンスフットワークはこう」と絶対を決める必要はないと考えます。
オフェンスがボールを持って前を向いています。走ってゴールへ近づこうとするのを阻止しようと、ディフェンスが立ちはだかって邪魔をします。これが一対一の構造ですね。
それは他の球技でも同じではないですか?バスケットボールに限ったものではなくて、サッカーでもラグビーでもハンドボールでも、基本的な構造は変わりません。
ハンドボールの選手がバスケットボールをしたときだけは、大きくそのレベルを落とすでしょうか。
サッカーでドリブルを前へ進ませない素早い動きを持った選手が、バスケットボールではまるで足が動かず反応もできないようになりますか?
大胆に言えばもう「鬼ごっこ」にも通ずるところがあって、それを上達させるためにはバスケットボールをいったん離れたほうが良い場合があるのです。
視野が狭くなっているのを広くすると、案外に物事は行き詰まっていたものもスッと進み始めます。
(さらにつづく)
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