【梅原トレーナーのからだづくり哲学】日本人選手はもっと海外へ飛び出したほうが良い
つい先日、日本人にとってたいへん嬉しい、また勇気づけられるニュースが流れた。
トロント・ラプターズとツーウェイ契約を結んでいた渡邊雄太選手が、4月19日にNBA本契約を交わし、晴れてトップリーグのNBA選手となった。
バスケットボールの世界は、同じ団体競技である野球やサッカーなどから比べて、海外挑戦をする選手またそこでプレイする選手というのはごくわずかである。
しかし八村選手に続き、二人目のNBA選手が誕生したことは日本のバスケットボール界の未来に大きな光そして勢いとなるに違いない。
かつて田臥勇太選手や富樫勇樹選手が挑んでなし得なかった偉業を、これからの選手に期待せずにはいられない。
▽海外進出は良い流れ
比較は良くないが、他競技に比べてバスケットボールは日本人選手の海外挑戦が少ない。遅れているという表現は適切とは言えないが、実際に世界に目を向けている意識の差が、ここに表現されていると言って良いだろう。
陸上競技やテニスなど個人種目は、そもそも国という感覚が少なく、世界全体で見てランキングの上下がある。そこに自分を当てはめてさらに上の領域へ挑戦することは自然な流れだ。
しかしバスケットボールは団体競技であること、選手がプレイヤーとして自分を見るよりチームが先に立つ独特な空気があること、日本代表が世界大会でほとんど勝てないことなどから、世界に目を向ける意識は薄い。
しかしそれを今の現役選手たちが変えてくれるかもしれない。八村、渡邊両選手はじめヨーロッパなどへ挑戦している、もしくはそれを目標としている若い選手は増えているようだ。
▽これまでの日本なら否定されてきたこと
こうしていまや、日本のスポーツ選手が海外へ挑戦することは珍しいことではなくなった。
日本人が国内だけに目を向け、国内だけで選手生活を終えるのではなく、当たり前に自分を世界へ当てはめて人生設計をすることは、たいへん良い流れを生んでいると私は思う。
これまでの日本では、若いうちから外へ行こうとすると「まだ早い」「通用しない」「自惚れている」などと言われて、大体が批判されてきた。
いまでも基本的にはそのような批評を受ける。TVなどで露出が一番多いのが野球であるから、野球選手のメジャー挑戦にまつわる話題をあなたもきっとよく知っているはずだ。
日本のプロ野球に所属している若手が、日本で実績も積んでいないうちからアメリカへ渡ろうとすると必ず批判される。さらにNPBに所属しないでダイレクトに渡米しようものなら、その攻撃は凄まじいものとなる。
これは「未熟なのに完成された世界へ行くなんて無謀だ」という意味が込められている。他人が見て、その選手の力と向かおうとしているステージが釣り合っていない、自分の力量を測り間違っている、ということだ。
つまり海外はじめ、レベルの高い世界へ行くのは「そのレベルになっているから」という大前提があるのだ。
▽挑戦の本当の価値
海外挑戦となると「身の程知らず」と酷評されるのが日本の定番なのだが、それがそもそも間違っている。
挑戦とは身の程を知り、それをわきまえてはいけない。それは挑戦ではない。違いますか?
実力が伴うからそこへ行くのではなく、そのレベルに到達したいから行くのである。できないことを実現するのが海外へ挑戦する選手たちの夢であり、思考であるから、周囲で傍観している私たちと目線がまったく違うのだ。
「できるからする」が他人の見方、「実現したいからする」が本人の見方である。そして挑戦とはまさしく自己実現だ。
だから未熟なときに行かずして、海外挑戦はない。
▽できないことに挑む毎日を
海外への意識に限らず、人生はどんなことでもつねに一つ二つ上のレベルに飛び込むことが、継続的な成長の条件となる。
到達したらその上に、また到達したらさらに上にと、ステップアップを望み続けることが重要だ。
人はチャレンジしなくなったときから歩みを止める。通用するとかしないの問題ではなく、人生を充実させるためには、つねにチャレンジが必要なのである。
もしもいま立っている場所が、自分にとって挑戦では無くなったのなら次へ移るべきだ。
さもなければ飽きや怠けが生まれ、それが元となってあなたの人生は潰れる。
恵まれた才能をさらに伸ばす挑戦をせず、楽に過ごせる環境に浸かってそこに安住する。どっぷり浸かって体がすぐに錆びつき出し、ケガも増えてほどなく引退。
そういうスポーツ選手が山ほどいたと思う。
本当なら活躍するはずの有望な選手が衰えて、所属はしていても出場時間はほとんどなく、またすぐに放出されてチームを点々と移ってばかりと、金食い虫と揶揄されるスポーツ選手が、昔も今も存在する。
挑戦しなかったために、安全な場に留まる選択をしたために、人生をダメにした人間がどれほどいたか。
だからあなたは誰になんと批評されようと関係なく、チャレンジを続けるべきだ。いまの力で通用する地位に留まることをせず、叩きのめされるかもしれない次のステージへ挑もう。
これは行動への慣れであり、若いうちからそうしていないと、歳を取ってからではもう大きなことは始められない。無茶が利く年齢のうちに、その下地をつくることが重要だ。
願わくば子どものうちから、いや物心ついたときからチャレンジの毎日で生きることが望ましい。今からでも決して遅くないので、とにかく十代のうちから上に上に目を向けよう。
身の程を知った上で、それよりも高い位置に跳び上がろうと果敢に挑戦してもらいたい。
挑戦は未熟だからこそ、輝く。
(了)
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