【梅原トレーナーのからだづくり哲学】心を安定させる特別な場所

スキルアップ トレーニング メンタル(心) 梅原 淳

体力づくりは肉体を鍛え上げることですから、どの段階であってもそれなりに辛く苦しいものです。

さらに私の預かるトレーニング現場では、怠けずサボらず、力を込めて頑張ることを説きます。

そして口で言うだけではなく、たしかにそう取り組ませるのです。

あるチームに体力的にまだ未熟な選手がいました。場所も年齢も性別も言いません。
選手の尊厳を守り、素性は一切明かしませんが、トレーニングが辛くなって心が落ちた出来事を少し書きます。

涙がこぼれ落ちる

バスケットボールコートを広く使って、重りを持ち、しゃがんだり立ち上がったりしながら壁から壁へ足を踏んで歩いていました。

そのようなトレーニングを2つ3つと取り組んでいき、その前には腹筋を鍛えるトレーニングをいくつかおこなっていました。

今日は3時間ずっと、トレーニングデイ。

ウォーミングアップを差し引いて、実際には2時間強といったところです。

ここではA選手としますが、その人は持久力や筋力において動作が重くなるのがやや早く、周囲よりも先に体力が下っていきます。

いわゆる、すぐへばる選手です。

A選手自身もそれを自覚していて、あるときその思いが爆発しました。
疲労がからだにのし掛かるものだから、トレーニングを流します。

しゃがまないとか、踏み込みを小さくするとか、そういうことをして少し回避しようとするのです。

そうして私から発破を掛けられたとき、思わず両目から大粒の涙がこぼれました。

精神統一の部屋

感情が噴き出すと前へは進めないので、私はすぐ横に見えたドアの向こうへ行くよう言いました。

体育館のステージ脇にある小さな倉庫へ続くドアです。
少し暗くて、誰もいなくて、音が届かず静かな場所。

冷静になれる環境なので、そこで一人、心を落ち着かせてくるよう促しました。

夕方16時に練習が始まり、おそらく18時頃か、その少し前あたりだったと思います。
19時の解散まで、A選手はそこから出てきませんでした。

精神統一できて感情にけじめをつけられたのなら幸いですが、どうだったのでしょうか。

私はA選手を呼びました。

心の苦しさに向き合う

ステージの上で、二人あぐらをかいて向かい合い、心の問題について私から話をしました。

慰めるでも、同情するでもなく、私自身も抱えた心の不安定をどうやって解決してきたかを教えました。

それは素朴なまでにただ真っ直ぐ、対峙するのみです。

気安い方法などなく、ごまかしも利かないし、逃げることなど絶対にできません。

心の問題はあくまで本人の脳で描かれる悪夢であり、原因は現実のことであっても気持ちの整理は本人の努力です。
それ以外に前へ進む方法はありません。

人よりも敏感な性格であることはよく理解できるので、それがストレスを溜めることにも繋がっていくことを知っておかないといけないのです。
A選手のようなタイプほど、心を育むことが大事です。

ひとまず、感情が表に出ることは良いことのように思いましたので、次に心を自分で落ち着かせること、ただ苦しさにやられっぱなしにせず、積極的に向き合い自分で感情にケリをつけるために、あるときには一人静かな場所をつくるよう話しました。

良い目で頷く

5分か10分か、真剣に話すと時間の長さがわからなくなりますが、目を見て大事な部分だけ伝えました。

最後は力強く頷き返事もしっかり返ってきましたので、一旦は本人に任せておこうと思います。

今後もめげるときがあれば、また「精神統一の部屋」を使ってもらいましょう。
心を鍛えるのも自分自身です。ここからの飛躍を楽しみにします。

多くの人に共有されるべき内容だと考え、レポートにしました。

それではまた次回。

(了)

この記事を書いた人梅原淳梅原 淳
運動技能を向上させる専門家として、またバスケットボールでのファンダメンタル・スキルを教えるコーチとして全国各地に出向いています。またその活動から得た日々の思考や発見を、YouTubeなどSNSを活用して情報配信しています。このコーナーで扱う内容は、それらSNSでは記さない一歩踏み込んだ情報として、トレーニング実践レポートをはじめ自分の育て方、大人の再教育、子育て、健康づくり、みなぎる食事など、あらゆるジャンルをテーマにお届けします。
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