【梅原トレーナーのからだづくり哲学】聞こえの良い半端な理想は人を弱くする

スキルアップ 指導法 梅原 淳

ここのレポートでずっと以前、子どもの環境に大人が介入することへのリスクについて書きました。

昨今、イジメや体罰などへの感心が強まり、ルール化が為されてきて、監視することで抑制が利いている点では大変良い流れです。

その一方で、語られない面として、現場の当事者で解決せずして大人が首を突っ込んですべて取り仕切るという構造がいつの間にかできあがり、それが行き過ぎたときには別の悪い事態が生じると警告してきました。

悪い事態とはなにか。

子どもの周囲から困難や悪い面を事前に排除し、彼らにとって都合の良い面だけを残したらどうなるか。

執拗にポジティブを推し、おだて、もてはやし、好き勝手に放任したら、人間はダメになります。
それが子どもの頃なら、なおのこと。

10代ですでに何にも意欲がなく、外面だけを良くして事なきを得るような、すべて受け流して生きる平均点狙い時代が到来するのです。

良い社会にしようと願うのは皆同じですが、本当は中庸つまり程よく真ん中が好ましいのであり、厳しさや冷たさなどといったこれまでのマイナス面を排除したいからと言って、今度は真逆に振り切っていこうとすることは賢明と言えません。

大人が変な知識をつけてしまい、いま社会の体勢は自主性、ポジティブ、自己肯定感、褒めて伸ばす、個性尊重、そういったたくさんの聞き心地の良い標語で覆われています。

その結果、現実はどうであるか。

優しさと緩さは混同します。
プラス思考とデタラメも、この社会では混ざってしまいます。
まったく違う様子のものを、似たものとして錯覚してしまうのです。

私たちはそのような世界で生活しています。

どれほど素晴らしい理想でも、それは突き詰めればこその話。
世の中では大抵がいいかげんに浸透していきます。選手ファーストなどがその典型例です。

褒めて伸ばすとか自主性を重んじるといったことも、あまり極端にしすぎれば不具合を起こして空回りする、過保護にするといったことになり、根っこの理想とは程遠い現実に悩まされます。

つまり、なにをするでも徹底して突き詰めなければ成果は上がらず、いまの教育やスポーツ指導の流れは、ただ好き勝手にしてだらしなくなっているだけの惨状をつくり出していると認識せざるを得ません。

それは子どもの世界に対して大人が足を踏み入れるからであり、当事者である者たちが身の上に起きたことを自分で決着させる経験を積ませようとしないことに、不具合が起こっているのです。

バグは取り除かねばなりません。

自己肯定感、個性尊重などといったものに社会が翻弄され、なま易しくするだけの結果は、10代での貴重な学びを削いでいるのです。
しかもこんなユルユルの時代に、せめていま経験せずしてどうするのか。

なにかを望んでも都合良く物事が運ぶことなどなく、タフに踏ん張って自分を鍛えねばなにも得られないという事実をありのままに見せる社会がいま、本当は必要です。

なにもしないけど良いことがあってほしい、出来が悪いけど努力はしない、今のままの未熟な自分で苦も無く簡単にやっていける社会、そのような世を期待する10代をつくってはなりません。

それは大人の責任です。

不要に持てはやし、おだて褒めちぎり、つくり笑顔で理解を示すかのような素振りをする。
無理に自分を抑えて、なんと大人が子どもに建前で話すようになりました。

本来の理想とは、まったく違うのではないでしょうか。

子どものためだとか言いますが、じつは大人のほうが負の面を見たくないだけのような気もします。

生きる上で苦労や挫折は必ず起こります。
あるものを無くすことなどできません。

教育やコーチングを良い悪いに振り分けず、プラス面もマイナス面もありのままに受け入れる潔さが、まず私たち大人に必要だと考えます。

やや長く回りくどい文面になったかもしれません。
決してなにかを否定するものではなく、様々な方向性の意見があって然るべきという私見を述べました。

願わくば、あなたの心で感じ考えるひとつのきっかけとなりますことを。

(了)

この記事を書いた人梅原淳梅原 淳
運動技能を向上させる専門家として、またバスケットボールでのファンダメンタル・スキルを教えるコーチとして全国各地に出向いています。またその活動から得た日々の思考や発見を、YouTubeなどSNSを活用して情報配信しています。このコーナーで扱う内容は、それらSNSでは記さない一歩踏み込んだ情報として、トレーニング実践レポートをはじめ自分の育て方、大人の再教育、子育て、健康づくり、みなぎる食事など、あらゆるジャンルをテーマにお届けします。
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