育成に逃げるコーチ(上)【梅原トレーナーのからだづくり哲学】
育成というワードがスポーツの世界で、もはやひとつのトレンドとなっている。もちろんたった今の日本が話の舞台だ。
それを言えば善者であり世の正解であり、また進歩的であると皆がそう位置づけている。まさに育成という言葉は、いまや日本のトレンドと言っていい。
育成がなにか正義的なポジションを確立しているから、誰もがそれを口にするしまた口にしなければいけない雰囲気に圧せられるところが見られる。
本当にそれが重要だと考えているのか、実際にその向きに帆をかけて進んでいるのかが疑わしく思えるくらい、大人達は口々に「育成のために」と決まり文句を唱える。
つまり、いまの日本で「育成」と言っておけば正しい側でいられて、ひとまず非難批判されることは回避できることになる。無難というやつである。
そのくらい育成はトレンドだという意味だ。
育成は成功をさせないという意味?
私はこれを一つの問題提起とするのだが、育成そのものを断じるつもりは、まさかない。私自身がスポーツの世界で生きていて、人の才能の一部を育てることを仕事としている。
とくに成長期にある年代の子らに、運動技能の発達をトレーニングしているから、私こそ中心に育成がある。
しかし普段、取り立ててその言葉は口にしない。あえて言わないのではなくて、それがあまりにも当たり前だから言うこともないというだけだ。やっていることは育成そのものである。
それでは一体、何に問題意識があるのかというと、育成が育てないことを意味しはじめたところにある。
まことおかしな話が現実になっていて、育成を重んじて実践すればするほど競技力および運動技能が育たなくなる。
字から紐解けば「育てて成す」もしくは「成すために育てる」であるのに、育成を掲げるとなぜか成功してはいけないかのような呪縛にかかってしまうのだ。
その最大の原因は、前回のエントリーで書いた「勝利至上主義」との誤った対立構造のためである。(あなたも隠れ勝利至上主義!?)
育成の本意はどこにあるのか
あまりにも強い指導や熱の入った活動というものを特別視してしまい、それをすると勝利欲に目が眩んでいると自分を咎めはじめる。選手の立場でそれは薄いが、指導者の側になると一気にその葛藤が膨らむ。
コーチ(自分)の個人的な欲求を、チームや選手(他者)へ押し付けているのではないかと責めたり悩んだりすることが、勝つことよりも育てる方針へと転換していくきっかけであることは事実だ。
しかしそれが為に、極端に勝つことを遠ざけてスポーツ活動の目的から省き、無意識に「それを考えてはいけない」といった偏った思考を持ってしまうことになる。
その最後、育成であるのに成さない、育たないというおかしな指導や活動が生まれていくのである。
私は素材と才能に恵まれているのにそれを呪縛のために眠らせているチームを、実際にいくらか見てきた。
正直に言うが、自分の携わるチームや選手ではない。私は結果を求めて強い指導をするので、上達しないことはあり得ない。
誤解なきよう、自慢や虚勢では一切なくて、勝ちたいとか活躍したい、もっと上手くなりたいという向上心が必ずあって、それを叶えようとするのが競技スポーツにおける欲求なのだから、真の育成とはその目的を達することだ。
だから教える側も真剣だし本気だし、その上で育たないなんてことはあり得ないと申し上げている。結果も育成も、本当は同じことだ。
しかしそれと反対に、あまりに思い込みや気負いが強くて、恵まれたものを捨てているチームが実際にあるようだ。
これを誤った育成の捉え方であり実際に不都合が生じていることを、問題提起したい。
いったん筆をおいて、また次回に考えていくことにする。
(つづく)
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